技術と表現と

『技術と表現』をメインテーマに据えながら、自分の興味あることを日々綴っていきます

日本でアートが売れない理由

研究室のメンバーやボスがこの問題について少しtwitterで話しているのを見て、考察してみたくなったのでまとめてみました。


ベースの知識は、

yamamoto-info.hatenablog.com

この時に述べたことです。
参考にしている図書も、その時のものが中心になっています。

美術、市場、地域通貨をめぐって 芸術起業論 創造力なき日本


そもそもなんでこんな話に?と後輩に聞いてみると、こんな答えが返ってきました。

これはたぶん正しいのですが、その論拠となる部分がかなり気になったので、自分なりに調べたり考えをまとめたりしてみました。
ただ、ちゃんと全ての問題を切り分けできてない感もあるので、小さめのテーマをベースに考えていきましょう。

アート市場や買い手/購入者はそもそもどうなっているの?

www.cinra.net

調べてみると、上記のような記事が出てきました。
どうせろくなことは書いてないだろうと思って読み始めてみると、意外と面白い分析が載っていて面白かったので、抜粋しながら説明していきます。

購入販路

これは日本において、ちょっと都内を離れるだけで、未だに百貨店が中心になっているそうです(都内ではまだ多少変化しているよう)。

超高額なオークション

世界の超富裕層がオークションで数億, 数十億で購入というようなことも、国内ではありません(これがないことで、アート購入者のイメージがより一層しづらくなっている面はあるでしょう)


また、

例えばコレクター層を抽出したアンケートで「はじめて購入した美術品の価格」を見てもらうと、39%のコレクターが、10万~50万円の作品を購入したというデータが出ています

とういように、少額の購入が日本市場内ではやや目立つようです。
さらに、

1億円以上の資産を持つ人数は世界で米国に続いて日本は2位

らしいのです。
ちょっと古いデータですが、ちゃんと参照しているものがあったので、こちらで詳細は見てください。

億万長者の割合世界一は日本だった!人数でも世界ランキング2位

アメリカが圧倒的に一位でいるのもわかります。
直近のデータをとれば、中国が成長してきていることは自明でしょう。
しかしながら、購入の余地がある人材が日本には多いことは十分にわかります。

ではなぜ買わないのか?

そうなると、次に生まれるのは非常に単純かつ深い疑問になります。
「お金があるのになぜアートを買わないのか?」

今までに見聞きした中で覚えているものを挙げるならば、
「戸建ての家の大きさが小さく、飾るスペースがない」
とかですが、それだけではあまりにも分析としては稚拙です。

ではなぜなのか?

うーん…
ひとまず単純に行ってみましょう。

「買うものがない」

どこで誰のを買うんだ?

https://www.cinra.net/uploads/img/interview/201703-artfairtokyo-photo5.jpg

出典:チャネル別の美術品市場規模 出所:「日本のアート産業に関する市場調査2016」(一社)アート東京・(一社)芸術と創造

https://www.cinra.net/uploads/img/interview/201703-artfairtokyo-photo7.jpg

ジャンル別の美術品・美術関連品市場規模 出所:「日本のアート産業に関する市場調査2016」(一社)アート東京・(一社)芸術と創造

ただ、このグラフだけでは、海外と比較して市場が大きいのか小さいのかいまいちわかりません。

海外と比較するとやはり少ないですね。実際、Artprice(フランスに拠点を置く、アート市場のリサーチ機関)の総計では日本はランキング外です

ふむ、なるほど?
このArtpriceという機関を知らなかったので、まずそこを調べてみたのですが、調査レポートがかなり詳細で正直かなり驚きました。

The Art Market in 2015

“The Art Market in 2015”

少し話は脱線しますが、このレポートの詳細を少し追ってみます。

OldMasters: works by artists born before 1760.
19th Century Art: works by artists born between 1760 and 1860.
Post-War Art: works by artists born between 1920 and 1945.
ContemporaryArt:worksbyartistsbornafter1945

アートの年代別作品の価格変化

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Post-War以降のものが圧倒的に上がっていて、その他はさほど、といった感じです。
ただ、2015年の売上高で見てみると、

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Modern Artが一番売り上げているんですね。まぁ、作品数とか知名度とかもあるんでしょう。

オークションの地域

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さて、次はオークションの地域別売上高などのグラフですが、ここが絶望的ですね。
Japanの名前は一切出てきません。
予想はできていましたが、衝撃ですね。

オークションに参加する人が、どれくらい開催場所に依存するかというのは推測し難いですが(USであれば世界各国から参加してくるでしょうし)、
それでも多少なりとも地域に依存する部分はあるでしょう。

そうなると、いかに日本人がアートを買わないと思われているか、というのがよくわかってきます。


買うものがない?

さて、市場分析というマクロな話は一旦ここまでにして、具体的な話に戻します。

やはり考えてみると、単純な話、日本の富裕層がなぜ買わないのか、という所に行き着きます。

この原因を文化的なところに見出すか、市場的なところに見出すかで分かれるんじゃないか、とラボのメンバーには言われたりしました。

  • 富裕層にアートを買うという「文化がない」
  • 投資対象として魅力的なものがない

ただ、これも相互の影響はありそうな話です。

明治維新期:西洋の芸術の流入

時は明治維新まで遡ります。
このタイミングで一気に日本に西洋芸術が入り込んでくるわけですが、このとき名だたる作品が入ってくるということはなかったはずです。

これは実は、いまやアート世界を牽引するアメリカとの大きな差です。
アメリカは第二次世界大戦の時に、名だたるアーティストの様々な作品を一気に国内に持ち込んでいます。

有名どころで言えば、グッゲンハイム美術館がまさにそれです。
それ以外にもアーティスト自体が、WWⅡの渦中となっていったパリからアメリカに逃げたりもしています。
こうして、アメリカ国内にはまず、「投資対象足り得る高品質なアート作品が多数存在」するようになったわけです。

この状態になってしまえば、国内のアーティストは身近に作品を感じながら、これらを越えようとする、という良い循環を生み出してくれるわけです。

一方、日本には前述の通り作品が入ってきません。
WWⅡで敗戦しますから、そのチャンスすらないというわけです。
となれば、必然的に国内アーティストの作品のみが市場に出てくるようになるわけで、国際競争に晒される機会を大幅に失ってしまうのです。

現在は?

この明治維新, WWⅡ以来の構造から未だに抜けられていないのが日本と言わざるを得ないと思われます。
国際的な評価を受ける日本人も、世界大戦の時代から何人かいるわけですが、

日本人オークション売上高順 in 2015

42. 草間彌生
76. 奈良美智
81. 白髪一雄
168. 村上隆
266. 田中敦子
287. 藤田嗣治
304. 吉原治良
356. 河原温
387. 元永定正
413. NOGUCHI Isamu
423. 今井俊満
461. 嶋本昭三

ここ最近で言えば、中国の成長目覚ましく、若手で有名な人もあまり出てきていない気がします。

村上隆の著書内の批判で言うと、
日本:現代アーティストがそもそも世界の舞台で戦えていない

  • 日本で個展ちょっとやってうぇーい勢ばかり
  • 金を嫌悪しがち
  • 教授もそういうとこ出身の人ばかりになって負のループ
  • 小さくまとまりがち

という話もあります。

このように、日本人アーティストでかつ国内にいて、投資すべきような相手がいなければ、日本人のお金持ちは投資しづらくなるのは自然の摂理であるような気もします。

ではどうすればいいのか?

という話になってきますが、あまり未来に大きく期待はできません。
やらなければいけないことが膨大である一方、それを命をかけてやってくれるような人がおそらくいないからです。

  • アーティスト育成強化 (教育)
  • Initial Moneyの発生 (投資家)
  • アーティスト周辺の強化 (画商,美術館,画廊,エージェント)

これらを全てやって段々と市場もアーティストも強くなっていくわけですが、
GEISAIなどを通してアーティストの育成部分に注力していた村上隆も、規模の大きい教育はすでに諦めてしまったようですし、
村上隆に代わって一体誰がその役を担えるんだ、という話でもあります。
(今は、カイカイキキ村上隆の教育の唯一の現場と言えるでしょう)

考えれば考えるほど悲しいですが、現状はこんなものなんじゃないでしょうか。

救いを考えるとしたら、追いつくことを考えるのではなく、別のジャンルで一つ抜きん出て、そこから突破口を見出すくらいしか、僕の頭では思いつけません。