技術と表現と

『技術と表現』をメインテーマに据えながら、自分の興味あることを日々綴っていきます

坂本龍一『音楽設置展(async)』 / 神保町の古本屋兼ギャラリー『Bohemian's Guild』

今回はなんともブログ的な、今日の出来事を話す回です。
こういうのは年明けのRhizomatiksの舞台を観た時以来ですかね。

yamamoto-info.hatenablog.com

今日はタイトルにある通り、
ワタリウム美術館で開催中の坂本龍一さんの『音楽設置展(async)』

坂本龍一 設置音楽展 ryuichi sakamoto async

たまたま神保町を歩いていた時に見つけた古本屋兼ギャラリー『Bohemian’s Guild』

jimbou.info

の2つについて、感想とか考えたことを書いておきたいと思います。

坂本龍一『音楽設置展(async)』

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ちなみに、この展示会を知ったのは、高谷史郎さんのfacebook経由でした。

http://shiro.dumbtype.com/

高谷史郎さんは、僕が今人生で一番見たい舞台芸術を行っている方で、dumb typeのメンバーでもあります。
インタビュー記事などを読んでいると、自分なりの『美』への探求というところが強いみたいです。

www.youtube.com

この舞台の音楽を坂本龍一さんが手がけているなど、二人はすごく良いペアとして最近色々と仕事をしているようです。
今回のこの展覧会でも、全体の構成や2Fのインスタレーションなどを担当したそうです。

構成

展示会の構成は、

となっています。
メインはやはり何と言っても2Fの空間でしょう。

2F : 5.1chで聴くアルバム曲

allabout.co.jp

5.1chで聴くというのは、要するに5つのスピーカーを使ってより立体的に音響効果をもたらすということで良いでしょう。
初めての体験でしたが、割とよかったと思います。
まぁ「割と」なので、そう特別な感情が呼び起こされたわけではありません。

それはなぜかといえば、音楽の性質的に立体感(音の前後左右)が超重要に感じられなかったためです。


話は飛びますが、先日僕の中学・高校の恩師であり、ギターを在学中に習った先生のお宅に遊びに行く機会がありました。
その時、レコード盤がいくつもあって、人生で初めてレコードを聴いたのですが、ここで聴いたものがとても印象的でした。
曲は1930s,40sあたりの、ずいぶん昔のJazz musicだったのですが、当時の録音環境には今のような「ライン録り」がもちろん存在しません。
演奏者がいて、アンプから出てくる音があって、それを録音していたわけなのですが、そうした録り方をすればもちろん生演奏に近いものが録音されます。
そして、その曲を2.1chの環境で流してくれました。
本当に驚いたことに、そこにバンドがいるかのようなサウンドが再現されているように感じられたのです。


こういった体験をつい最近したばかりだったため、坂本龍一さんの楽曲(そして今の録音環境)では、5.1chによるライブ感の薄い体験となってしまったのです。
もちろん、ライブ感ばかりが重要なわけではなく、音の世界に入って身体全体を通じて音楽を体験するという意味では、この5.1chは非常に重要な役割を果たすことができます。

坂本龍一の音楽

5.1chの話はぼちぼちにしておいて、音楽の中身の話に移ります。
僕は今まで、坂本龍一さんの音楽を正直全くわかっていませんでした。
ピアノ主体でかつオーケストラ的要素をベースとした曲で、でもちょっと不思議な感じがある、なんとも捉えどころのない音楽というのが今までの印象でした。

ただ、今回、じっくり楽曲を聴く体験を通してわかったことがあります。
坂本龍一さんの音楽は「ピアノやオーケストラ的要素をベースにしつつ、コンピューターミュージックと融合を果たした静かなる音楽」なのだと思いました。

思い返してみれば、坂本龍一さんはもともとYMOの一人です。

www.ymo.org

コンピューターミュージックの要素が大きくきて当たり前なのです。
作曲家のイメージの強さと、曲中のピアノの印象の強さで忘れがちですが、活動歴を辿ってみればすぐわかることでした。

この解釈が正しいのか間違っているのかの判断は他の人に委ねますが、僕は僕なりに一つの理解ができて、とてもスッキリしました。

それと、アルバム曲中に、先ほども動画を出した舞台『ST/LL』中に出てくるような楽曲があり、それを5.1chで聴いている時だけは、鳥肌が立ちまくりでした。

3F : アルバム制作環境のインスタレーション

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『volume』と名付けられたこの展示スペースには、アルバム制作環境の映像や音を組み合わせたインスタレーションが作られていました。

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そして、このスペースで僕が興味深く感じたことは、

  • ディスプレイの配置の仕方
  • 音の出し方

です。

ディスプレイの配置の仕方

昨年度、初台にあるICCで興味深いディスプレイ表現を見たことがあります。

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オープンスペースにあったこの作品は、確か人間の部分がディスプレイで表示されていて、その周りがペンキ等の物質でできているというものだったはずです。
これを見た時、僕は「ディスプレイは埋め込まれるべきだ」と痛切に感じた記憶があります。
あまりにも自然に溶け込んでいたのです。

そして、今回の3Fのインスタレーションにも同じような工夫が感じられたのです。

1枚目の写真を見ていただけるとわかるのですが、まずこの部屋は相当暗いです。
(奥の方になると、ディスプレイ以外ほぼ真っ暗に近いです。)

さらに、この画像を見ていただきたいのですが、

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暗くて見づらいかもしれませんが、実はこのディスプレイは全てipadiphoneで、それを留め具で止めて壁中に置いているのです。
これは暗さと相まって、真っ黒の壁中(空中)にディスプレイが埋め込まれている(浮かんでいる)ような感覚を創出しています。

これはまさに「ディスプレイの埋め込み」だと僕は思ったわけです。
壁の方をいじって準備するのが大変なら、光で実質的な効果をもたらしてしまえ、といった様子を勝手に想像してしまうのですが、それはたまらなく素晴らしい発想だと僕は思っています。

音の出し方

この3Fの空間で奇妙だったのは、スピーカーらしいスピーカーがなかったことです。
それぞれのipad / iphoneから音を出させていたのです。

全体を写した写真を見るとわかりますが、ディスプレイは5,6箇所にまとまって配置されています。
なので、5,6場面、それぞれ全く違う映像・音が流れることになってしまうわけですが、不思議なことにお互いが過干渉してしまうことがなかったのです。

これは音の長さとか大きさとか、いろいろな調整があったと思うのですが、1つのスペースにランダム的に音が発生する環境を作っても、努力次第でコントロールできるというのがわかった良いインスタレーションに思えました。

4F : 新作映像を使ったインスタレーション

このフロアに関しては、正直特に言うことはありません。
良くも悪くも普通な感じが強い空間でした。

B1F : アナログ版を聴ける

地下ではレコード盤に収録されたアナログ版の『async』を聴く事ができました。
レコード盤が最近少し好きになりつつあるのは、きっと音質云々とかではなく、見た目のかっこよさ的なものなんだろうなと思い始めています。

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神保町の古本屋兼ギャラリー『Bohemian’s Guild』

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三省堂本店の裏通りである神田すずらん通りを歩いていた時に、偶然発見した古本屋兼ギャラリーです。
1階が古本屋になっていて、美術・デザインに関する本が所狭しと並んでいます。
現代美術を含め、大型書店ではあまり目にかからないような様々な本が並んでいて、最高です。

そして、2階はギャラリーのようになっていて、版画・シルクスクリーンを中心にした作品が数多く売られています。

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そして、入ったすぐのところには、このブログでも度々取り上げている村上隆さんの作品が置かれていました。

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たぶん、直接村上隆さんの作品を見るのは初めてだったのですが、それ以上に衝撃的だったのは、有名アーティストの作品が数多く普通に売られていたことでした。
今まで、美術作品は美術館で見ることがほとんどで、売り物として見ることはなかったのです。

そして、初めて買えるものとしていろいろな作品を目にしてみて、初めて前澤さんが言っていたことがわかりました。

forbesjapan.com

「家に飾るために普通に買ってみたい」
という気持ちを初めて感じることができたのです。

それはやはり、作者のことをよく知っていればこそというのもあります。
作品というのは、もちろん社会へのメッセージもあるでしょうが、それ以上に、アーティストの生き写しとしての存在価値があるわけです。
アーティストは人間である以上、必ず死んでしまうものです。
しかし、作品は保管されさえすれば永遠に残ります。
そこにアーティストの考え・思いなど様々なものが残り、表出しているのです。

作品を見るたびに、その思いに触れることができ、アーティストを感じることができる。
それが、美術作品を買う人の気持ちなのだ、と思ったのでした。